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【ネタバレ有】狂気と愛情のミステリー 加藤シゲアキ著「チュベローズで待ってる」感想・考察

「アスカノ」を読んでから、ホストを題材とした作品に興味があったので読んでみました。今回読んだのは小説「チュベローズで待っている」(加藤シゲアキ著)。この作品自体はホストが主題ではなく、就活に失敗した主人公がホストという職業選択をすることがその後の人生のアクセントになっています。読み進めるうちに良い意味で裏切られたのでとても面白かったです。

目次

<あらすじ>

チュベローズで待ってる AGE22 (新潮文庫)Amazonより

【Age22】就職活動に失敗した22歳の光太は、カリスマホストの雫にスカウトされてホストクラブ「チュベローズ」で働きはじめる。客としてやってきた美津子が憧れのゲーム会社に勤めていることを知り、彼女を利用して夢に近づこうとするが――。
【Age32】成功したゲーム・クリエーターとして社内の尊敬を集める32歳の光太。しかしそのプロジェクトが不祥事に見舞われる。背後に組織的な陰謀があると知った光太は事態に対処するが、やがて美津子をめぐる秘密を知ることに――。引用:Amazon「チュベローズで待ってる」

 <感想>(ガッツリネタバレあり)

一言でいえば狂気を帯びた悲恋の作品でした。ミステリーと狂気が入り組んで刺激的な作品になっています。この作品の一番の驚きポイントは「八千草の”兄”という黒幕がいる」点です。発達障害等でうまく生きれない八千草弟を操り人形かのように兄が操っていたなんてよく考えつくなぁと感心しました。眼鏡に仕込んだカメラで周囲を監視し、ワイヤレスイヤホンで指示を送るという設定に若干無理はあるけど、まぁ合点はいく感じです。

そして、登場人物誰一人として共感できないのです。笑
全員が絶妙に倫理観がバグりまくっていて、それも含めて狂気の一部だと思いました。美津子の弟ユースケが暴走しだしたあたりから行動がやばすぎてハラハラしました。美津子にパワハラの濡れ衣をきせた加賀宮の熱帯魚殺したりね、その死んだ熱帯魚が入った水を飲めって強要させたり、美津子を深く絶望させる一因になったとは言え、アイツもなんだか不憫に思いました。最後は事故に巻き込まれちゃうし。当の美津子も八千草の秘密を知ってもなお八千草兄と恋仲になったり、兄の指示だと勘違いして八千草弟と肉体的関係を持ったり。彼女も倫理観がおかしくなってしまっていたと思います。

途中の急展開や人物の狂気にもびっくりもしましたが、やっぱり主軸は洸太と美津子の愛情の物語であると思います。美津子の最期のメッセージを読んでなんとも言えない気持ちになりました。

自分がこの作品で考えたい点は2つです。

・幸せの絶頂で死にたいという考え
・「チュベローズで待ってる」の意味

幸せの絶頂で死にたいという考え

Age22のラストのシーンで美津子は自殺をしてしまいます。彼女の自殺はAge22では謎に包まれたまま終わりますが、真相はAge32で明らかになります。Age32で主人公洸太は、美津子の過去に何があったのか真相を知ります。上司八千草の秘密、美津子が八千草兄を愛し、妊娠、流産、愛する人に裏切られ、暴言をうけ、パワハラをでっち上げられ異動処分。彼女の絶望は底知れず、洸太に向けた最後のビデオメッセージには「死にたくなるような日々」だったと語っています。

そして、彼女の自殺した意味が明らかになります。それは、「次に最高に幸せな瞬間に私は死ぬと決めていた」という美津子の決意です。これに関して個人的には意外と共感できる部分もありました。

もし次に

幸せと感じられる日々がもしあるとしたら

その絶頂のときに死にたい

私はそう決めたのです

引用:「チュベローズで待ってるAge32」p.325より

よく言う「この時がずっと続けばいいのに」「時間が止まってしまえばいいのに」という幸せな時間に関する比喩表現に使われがちですよね。この言葉を口にするときは、そう思っていても時は進み続けるのを分かっている刹那さが込められているのですが、「時間が止まらないのであれば止めてしまえばいい」という考えを美津子は持っていたんでしょうね。それが絶頂の幸せで時を止めること=死ぬことだったのです。

人生の最期は私が一番幸福な今にしたいと思います

あなたに会えたことが嬉しかったから

私は死にます

引用:「チュベローズで待ってるAge32」p.326より

洸太自身は、はたして彼女を愛していたのか分からないようでしたが、客とホスト以上の関係に完全になっていたのは明らかで言葉にしなくても二人は愛し合っていました。

美津子にとって洸太を愛し、彼からも愛され、彼の目的だったAIDAに内定が決まったという瞬間が彼女の最高の幸せの瞬間だったんでしょう。その先の未来ももしかすると一緒に幸せになれる未来があったかもしれませんが、彼とひと回りほど年上、子供も産めないかもしれないと考えると確かにこの先の未来、この瞬間より幸せなことはないかもしれません。悲恋であればあるほど「いまこの時間が止まってしまえばいいのに」と思いますよね。

普通の人間ならそう分かっても生きていかなければならないのですが、「幸せな瞬間に死ぬこと」は底知れぬ絶望を味わった美津子の固い決心でした。彼女は、死ぬことでハッピーエンドで人生を終えられたのです。

女性ならば一度は考えたことがある、「若くて綺麗なうちに死にたい」という考えにも一種通じるとこがあって美津子の考えにも共感できました。

「チュベローズで待ってる」の意味

みんな大好きタイトル回収です。チュベローズで待っているのは誰かということを考えると胸がいっぱいになりました。
「チュベローズで待ってる」のは洸太に会いに来ていた美津子だったんですよね。

パッと見タイトルだけだと、お店(チュベローズ)で待っているのはホストである洸太だと思ったのですが、これも最後の美津子のメッセージの場面、

―あなたをチュベローズで待ってるあのときの 高まる気分は 幸福は 私の人生の最も大切な思い出になりました

僕をチュベローズで待ってる美津子の横顔が、小さくソファに座っている彼女の姿が、そして僕を見ては少し照れ臭そうに俯いて笑う表情が、いくつもの美津子が僕の中にあった。

引用:「チュベローズで待ってるAge32」p.328より

チュベローズで洸太を待っている美津子の幸福感がとても伝わるのと同時に、洸太もチュベローズで自分を待っている美津子の姿をしっかりと記憶している描写です。

美津子の視点からも、洸太の視点からも二人の愛おしい感情があふれ出ているこの2文がすごく好きです。

総評:加藤シゲアキはすごい作家

ちなみにチュベローズの花言葉は「危険な楽しみ」「危険な戯れ」「危険な快楽」「危険な関係」

狂気と愛情をうまく描いた作品です。飛行機の機内でAge22を一気に読み進めてしまって早くAge32が読みたい気持ちになりました。

2巻構成ですが、1巻(Age22)でも非常に良い作品として完成されています。続編の2巻(Age32)では1巻の解像度がより高くなるうえに、真相にたどり着くことでもう一度読み返したくなるような良い作品です。

個人的にはAge22で美津子の自殺で物語が終わったことで二人の間にあった愛情のようなものの余韻が感じられてこの1巻だけでも余白があっていいと思ったが、読者的にもなぜ美津子は自殺したのか、洸太はこれからどうなっていくか気になるところが多く残っていたところにこの狂気と愛に満ちた2巻ですよ!!!あっけにとられました。

加藤シゲアキさんはNEWSのメンバーである以上のことはあまり知らないのですが、「チュベローズで待ってる」を読んでほかの作品も読もうという気になりました。非常に遅いですが良い作家と出会った!!というのが正直な気持ちです。いやぁ読書は楽しい。

▼最近文庫版が出たんだよ

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