MENU

小川哲著 小説「君のクイズ」感想│クイズを通しての真相究明と人生を追体験が面白い

小川哲著 小説「君のクイズ」読みましたので感想をまとめていきます!

注意 小説「君のクイズ」のネタバレを含みますのでご注意。ここに書いてある考察は個人の感想です。

クイズプレイヤーが主人公という斬新な設定でしたが、最近ではテレビ番組「東大王」などでクイズをしない一般人にも「クイズプレイヤー」に対する認知は広まっていますね。

かくいう自分も東大発の知識集団、QuizKnock【クイズノック】の動画で競技クイズを知り、クイズノックのファンで動画もよく観ていてクイズプレイヤーには親しみを感じています。

そんなクイズプレイヤーの頭の中を覗いてみたような作品です。自分は、真剣でまっすぐな主人公が好きです。

目次

「君のクイズ」あらすじ

ストーリー:生放送のTV番組『Q-1グランプリ』決勝戦に出場したクイズプレーヤーの三島玲央は、対戦相手・本庄絆が、まだ一文字も問題が読まれぬうちに回答し正解し、優勝を果たすという不可解な事態をいぶかしむ。いったい彼はなぜ、正答できたのか? 真相を解明しようと彼について調べ、決勝戦を1問ずつ振り返る三島はやがて、自らの記憶も掘り起こしていくことになり――。 (Amazon:「君のクイズ」紹介文より)

「君のクイズ」感想

・誰もが経験する知識と記憶の結びつきを体感できる
・真相究明✕クイズを通して登場人物の解像度があがっていくことにワクワク
・真剣でまっすぐな主人公が良い

誰もが経験する知識と記憶の結びつきを体感できる

作中で主人公三島は、対戦相手本庄の0文字回答について、「ヤラセ」なのか「魔法」なのか真実を追求していきます。その追求過程で、三島は「Q-1グランプリ」の問題と解答への記憶を振り返ります。

・伊集院光のラジオに関する問題ー三島の兄と自身との記憶
・アンナ・カレーニナに関する問題ー父の持っている書籍を見た記憶
・日本で最も低い山に関する問題ー2011年3月11日の大震災の記憶
・三日月宗近に関する問題ー初めての彼女桐崎さんとの記憶
・徽宗に関する問題ー過去に作問した記憶
・OTPPに関する問題ー京都のホテルで黒烏龍茶のポスターでみた記憶
ゲーム「undertale」に関する問題ー別れた彼女が好きだったゲームの記憶
・競走馬「シンボリルドルフ」に関する問題ー過去に作問した記憶

作中で、三島は解答を導く過程として自身の経験したことや考えた記憶をもとに思い出しています。

例えば、正解した「OTPP」のの問題に関する記憶を回想する際に、

・黒烏龍茶のポスターをみたこと
・4文字のアルファベットだったこと
・PPAP(お笑い芸人ピコ太郎のネタ)を思い出したこと

三島は「OTPP」を”覚えていた”わけではなく、「OTPP」を”見たときに考えたことを覚えていた”から正解できたことを述べています。

私達でも、テレビでクイズ番組を観ていて、わかる問題が「昔行ったことがある場所だ!」とか、「友達とこういう時に話を聞いたな〜」と記憶とセットで考えるときってありますよね。

頭がいいから知識として覚えているということももちろんあるでしょうが、こういう思考の仕方って私達一般人の頭の中でもずっと繰り返されていることで共感できました。

”僕は思い出す。『深夜の馬鹿力』のことを。『アンナ・カレーニナ』のことを。『三日月宗近』を、『OTPP』を。そして、これまで正解したすべてのクイズを。
クイズに正解するということは、その世界と何らかの形で関わってきたことの証だ。僕達はクイズという競技を通じて、お互いの証を見せあっているー”

引用:小川哲「君のクイズ」 p.144より

私達にとっては神業的に見えるクイズプレイヤーの解答も彼らの中の頭の中では、私達一般人と何ら変わりない思考がもとになっていることが感じられます。

クイズに対して自身の記憶との連想ゲームをしている様が、主人公三島を通して体感できるのが読んでいて楽しかったです。

真相究明✕クイズを通して登場人物の解像度があがっていくことにワクワク

本庄の0文字解答が「ヤラセ」なのか、「魔法」なのか追究していく過程で主人公三島とライバル三島のバックグラウンドがどんどん分かっていくことにとてもワクワクしました。

上記で三島が「Q-1グランプリ」の問題と解答を自身の記憶と回想することで、彼の小学生時代・中学生時代・高校生時代・大学生時代・社会人時代が語られます。主人公三島玲央の人生がクイズを通してわかります。

一方ライバル本庄に関しても三島視点で彼の人生を解き明かそうとします。

・TV制作側から「超人」という役割を与えられて、やり遂げる
・中学校の頃いじめられて不登校になる(震災半年前から)
・東大医学部進学・テレビ出演をした昨年にクラス会に出ていた(三島が思うに復讐?)

そして三島は自分にとってクイズが支えであったように本庄もクイズによって救われたのではないか?と感じ、親近感を抱くようになります。

しかし、実際、彼と会って真相を確認すると彼は「Youtubeとオンラインサロンを立ち上げるため」の演出として、『Q-1グランプリ』の0文字解答をしていたことがわかりました。純粋なクイズプレイヤーの三島にとっての彼への考察は不正解だったわけです。それは本庄が類まれなるクイズの才能(正確にはクイズ番組としてのクイズの才能?)がありながらも、クイズプレイヤーではなかったからだと思います。本庄は「クイズで生きていく」「クイズで金を稼いでいく」のが目的で、それは三島のクイズの価値観とは決定的に違うものだったからです。

私も三島の視点を通して、本庄に対して綺麗で純粋なクイズプレイヤーとしてライバルであってほしいと読んでいました。それは作中で偶像を作り上げるファンと同様で、本庄の本質を理解することはできなかったんだなと真相を知った時の三島と同じく失望感を感じました。

個人的に好きなシーン

主人公の恋愛回想シーン

主人公と別れてしまった大好きな彼女の回想シーンが良かったです。切なくもくすぐったいようで満たされた気持ちが切に伝わってきます。

三島は彼女と博物館や美術館でデートをしていくなかで、

”彼女と一緒にいることで、それまで単なる文字の情報にすぎなかった知識が現実の世界と結びついていった”

引用:p.83

知識で勝負してきたクイズプレイヤーだった三島にとって、初めての彼女、得意げに知っている知識を話したりしたんだろうなぁと思ったり。

“同棲してなければ、僕達は別れる必要はなかった。人生というクイズの中で僕は誤答をした。その結果、僕は誤答罰を受けることになった。”

引用:p.

彼女とは新しい生活の変化や同棲したことですれ違い、別れることになってしまい”誤答”したと考えます。しかし、三島はその彼女との思い出でクイズを正解しています。その正解音は彼の人生を肯定するものでもあり、まさにクイズとは人生なんだなぁと思います。

クイズプレイヤーとクイズ

この作品では、クイズそのものを愛する三島とクイズ番組という性質を攻略しつくした本庄とのギャップが真相としてわかるのが面白いところです。競技クイズがあるのに、クイズだけで食っていけるプロプレイヤーはいない今の現状。本庄は「クイズで食う」ためにクイズプレイヤーを完璧に演じていました。

理想はクイズを純粋に愛するプレイヤーがクイズだけで食っていける世界があればいいのですが、今は難しく、そことのギャップも本作を考える必要な要素でした。

とにかく面白かった!クイズ番組とか好きな人なら特に楽しめるおすすめ小説です。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次