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映画「すずめの戸締り」感想・考察 「ウダイジン」・「サダイジン」の役割|自然と人と信仰について|ダイジンの変化の理由

すずめの戸締り観てきました!語りたいことがたくさんあるので、自分の考察や感想を語っていきます。

注意 映画「すずめの戸締り」のネタバレを含みますのでご注意。ここに書いてある考察は個人の感想です。

第一に感想を挙げるなら「めちゃくちゃ良い」でした。語彙力なくなるくらい良かったです。

2時間20分のボリュームでも飽きさせないほどテンポが良く、ストーリー、音楽、映像全てに繊細な世界観がつまった綺麗な作品でした。キャラクターもみんな魅力的で爽やかなのもいいですね。後味が気持ちよいです。

自分が特に良いなと感じたのは、日本人の感覚に依った物語の表現です。作品中には日本古典から下敷きにした設定・引用・オマージュなどあったり、日本古来からの自然信仰・神道的な考えに基づくストーリーに文学性が高いなと感じました。そこに現代を生きる日本人なら誰しもが心にある「3.11」(東日本大震災)への想いが合わさって、全体的に日本人の琴線に触れる深みのある作品だなぁと感動しました。

①多用される古典・オマージュなどの表現
②「自然」と「人」と「信仰」に見える日本人が受け継いできた大切なもの
③東日本大震災を作品に描くということ

以上の点について感じたことを述べていこうかと思います。

目次

新海誠作品と古典表現

「君の名は。」からも強く、男女入れ替えは古典文学の「とりかえばや」の設定をオマージュしていたり、古今和歌集の小野小町の歌を引用していたりと古典文学と新海誠作品は深く物語と関わってきます。

*オマージュ
…芸術や文学において、尊敬する作家や作品に影響を受け、似た作品を創作すること、またその創作物を指す語である。しばしば「リスペクト」(尊敬、敬意)と同義に用いられる。

オマージュやパロディなどはポピュラーな創作の形式で、古来から先人たちの物語を共有して作品に取り入れてきました。

「君の名は。」のときも古典を取り入れた表現が個人的に好きで、今回のすずめの戸締りでもそれを感じました。

草太が椅子になってしまう設定は、童話「蛙になった王子」を思わせるものであり、「後ろ戸」は古典能楽における概念であったり教養的おもしろさが含まれているのがすごく文学的だなと思います。

多用されるオマージュ・教養の面白さ

作中には童話や日本神話、日本古来の信仰や歴史を下敷きにした表現が多くあり、他にもジブリ作品をオマージュした部分があったり、知っているとクスっと笑えたり、物語に深みを感じたり、受け手の想像力を豊かにさせる場面が多々ありました。

オマージュやパロディは観る側が、元ネタを知っていることが前提で伝わる面白さがある表現技法です。

具体的には、

・椅子になった草太に恋をする→カエルになった王様(童話)
・ダイジン(猫)が電車に乗って旅する→耳をすませば(宮崎駿監督ジブリ映画)
・ダイジン(猫)と旅する(BGMがルージュの伝言)→魔女の宅急便(宮崎駿ジブリ映画)

アニメ映画においてジブリ作品って、一種の教養なんだなと感心しました。

昔の人が源氏物語を元ネタとしたパロディやオマージュをたくさん残しているように、「あの作品のあのシーンだ!」と誰もが気づけるジブリ作品はもはや教養ですね。

こうしてみると「ダイジン」が猫という設定が、オマージュに良い効果を与えていますね。

「ウダイジン」「サダイジン」の由来

作中で神格化されている猫の「ウダイジン」「サダイジン」は漢字では「右大臣」「左大臣」と表記できます。
「右大臣」「左大臣」自体は、平安時代以降の貴族の外出時に警護のための官人だそうで、”要石”として西と東を守っていた作中の2匹の役割とも重なります。

イメージしやすくすると、雛人形の「左大臣」「右大臣」の役割に類似しています。雛人形の「右大臣」と「左大臣」はそれぞれ見た目や位が決まっていて…

「右大臣」→若い男子、左大臣より位が低い
「左大臣」→老齢の男性、右大臣より位が高い

*参考:雛人形の左大臣・右大臣について

作中でウダイジンが若い子猫で、サダイジンが大きい成猫の姿だったのはこういった由来があるのではないかと思います。

サダイジンがウダイジンのことをなだめている場面を見るに、サダイジンのほうが明らかに神格化した存在としては成熟して偉いんだろうなと思いました。

「ウダイジン」「サダイジン」という猫の名前はと2匹の役割を示唆しているということが分かります。
これも一種の教養で、面白さを感じられる表現だなと感じました。

「自然」と「人」と「信仰」

観てて思ったのが、「自然」-「人」-「信仰」というテーマがあり、民俗学的なつながりが今作品でも重要な下敷きにあるということです。このテーマが私たち日本人に強く訴えるものがあるように思えます。

「自然」と「人」と「信仰」、日本人が受け継いできたもの

作中の「自然」ー「人」ー「信仰」の要素

・自然(災害)…みみず
・人…すずめ・草太 その他その土地で暮らす人々etc
・信仰…ウダイジン・サダイジン(神様)・要石・閉じ師(神職?)

無宗教なんて言われる日本人ですが、日本古来からの自然信仰をベースとした神道が日本各地で受け継がれてきました。

自然災害の多い日本において「自然」と「信仰」は深い関係にあって、現代を生きる私たちにも心のどこかで根強いている感覚です。

各所に神社があり、八百万の神を祀り、現代でも神社でお祭りなどの神事をする。夏には夏まつりに由来は知らないお祭りや神社には干ばつ、川の氾濫、火山の噴火、地震などの自然災害の鎮静を目的としていたかもしれません。

作中では日本各地の廃墟にある厄災をもたらす「みみず」が後戸からでてくるのを封じるために、草太が務める「閉じ師」がそこに住んでいた人々のことを想い扉を閉めて厄災を防ぎます。

草太やすずめが行った「住んでいた人々の声を聴く」→「詠唱」→「戸締り」という流れを形式化することによって、神事的な面を持たせていたと思います。

閉じ師の役割は、神と人を結ぶような一部神職のような役割も垣間見えます。

「ダイジン」の姿が変わる理由は「信仰」

ダイジンは猫の形をしていますが、あれは猫の形をした神様です。
ダイジンは要石として後ろ戸を護っていた神様です、すずめに引き抜かれて封印が解かれて猫の姿になります。

ダイジンの姿が変化していくのには、人と信仰の関係を表しているのかなと思いました。
登場したときガリガリだったり、すずめに優しくしてもらってふっくらしたり、嫌いと言われてガリガリになったりします。

▼ダイジンの姿が変わった場面

・ダイジン登場(ガリガリ)
・すずめにミルクをもらい、「かわいい~」、「うちの子になる?」と言われる(ふっくら)
・すずめに「大嫌い」と言われる(しょんぼり・ガリガリ)

神様は人の信仰がなければ生まれません。よって、ダイジンは人が生んだ神様だと考えられます。
かつての信仰によって生まれ、後ろ戸を護っているうちに人が離れて廃墟になり、人の信仰が薄くなっていくうちにやせてしまったんだろうと思いました。すずめに「うちの子にならない?」と言われて元気になって、神様としての本質的に、人に求められたことが嬉しかったのでしょう。人に求められることが神様の存在する意味だから嬉しくなってふっくらした姿になったのだ思います。

また、物語中盤ですずめから「大嫌い」という言葉を聞いたダイジンは急にションボリとし、元のガリガリの猫の姿に戻ってしまい元気がなくなってしまいます。ダイジン(神様)にとって人(すずめ)に求められない=存在する意味がなくなってしまうことになってしまったのです。

「自然があって人がいて、人がいて信仰(神)が生まれる。」感覚をありありと感じました。

同監督作品「君の名は。」でも三葉が神楽を踊り、口噛酒を造る、大災害が起き、滝がそれを呑み、常世と繋がるといった描写やストーリーがあり、信仰と人と自然は、新海誠作品には外せないテーマなのかなと思います。

東日本大震災を作品に描くということ

東日本大震災を作品にするのは驚きというか、今までパンドラの箱のような扱いがあったと思います。自分は当時九州の高校生でした。被災者ではない自分は、東北出身の人に当時のことを聞けませんし、この話題をどう扱っていいのか正直分かりません。ただ目をつむったり、蓋をするのではなく、こういった作品で考えられる機会を与えられたような気がしました。

一緒に観に行った人は、「東日本大震災を題材にするのはちょっとずるいよね。」という感想を言ってました。東日本大震災を日本のどこかで目の当たりにした人であれば、絶対心動かされるじゃんということですよね。気持ちは分かります。

ただ単に「悲しい災害だった」「東日本大震災や犠牲者を忘れない」という気持ちだけではなく、日本民族として大災害を伝承していく使命的なものも感じました。

人知を超えた自然の驚異を受け、犠牲者を弔い、伝承し、自然とともにまた生きていく、ずっと古くから繰り返し繋がってきた一連の流れがそこにはあると思います。

自然災害は繰り返すからこそ、当時の人々は記録を残しながら伝承し、未来のわたしたちは約100年周期で大きな地震がくることもわかるし、どこで起きたのかどのくらい被害が出たのかも分かります。

古典文学作品から災害の記載はありますし、アニメだから・映画だから・フィクションだからといったエンタメ商業としての娯楽の面以外にも、自然災害に関して継承していくような役割も果たせるんじゃないかと思いました。

参考:仙台市教育委員会 仙台版防災教育副読本「3.11から未来へ」

もう1回観に行くよ~~~!

以上、自分が考えた感想でした。正直、考えがまとまってないけど言いたいことがある勢いで記憶を頼りに書きましたので、記憶違いがありましたらすみません。

12月3日からは、劇場で配られる特典「新海誠」の第二弾「新海誠本2」が配布されるということで、もう1回観てこようと思います!序盤でクレジットが出てくるまでの演出がすごい良かったのでもう一度劇場で楽しんできます。

「君の名は。」のときも小説で補完される部分があったので、小説版「すずめの戸締り」もこれから読みます!

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